血液細胞関連疾患

モノクローナル抗体を用いた細胞分析検査
─マーカー分析における基礎─

京都大学医学部附属病院 血液・腫瘍内科 大森 勝之 先生

はじめに

基礎研究および医療技術の発展に伴い、細胞性免疫をはじめとする免疫学は飛躍的に進展した。細胞分子生物学、遺伝子工学などの応用により多くの研究者から数々の知見が報告され、生理的機能、病態・病因、さらには治療まで興味ある議論が展開されている。

これらの学問は、臨床検査の分野にも導入されつつある。B細胞ハイブリドーマの樹立法が報告されて以来、リンパ球をはじめとする血液細胞の表面抗原に対する多数のモノクローナル抗体が作製された。モノクローナル抗体はリンパ球サブセット検査、造血器悪性腫瘍細胞検査などの細胞性免疫検査では主要な試薬として実用化され、臨床に対し多くの有用な情報を提供しているのである。すなわち、免疫疾患・臓器移植などの免疫能のモニタリング、分化抗原を用いた白血病・悪性リンパ腫のマーカー分析、さらには細胞機能分子の解析など、免疫血液学を応用した詳細な病態解析、診断、治療法の選択、治療効果および予後の判定などに広く活用されている1-3

本稿では、臨床検査として定着したモノクローナル抗体とフローサイトメーターを用いた細胞分析検査の現状と今後の動向について、我々の知見をふまえながら数回のシリーズ編として概説する。

細胞表面抗原の解析法

細胞表面抗原の解析法は、初期においてはロゼット法あるいはポリクローナル抗体を用いた蛍光抗体法による顕微鏡下の方法が行われていた。今日では、検査室における表面マーカーの解析はモノクローナル抗体を用いた酵素抗体法とフローサイトメーターを用いた方法が一般的になった。図1に示すように、あらかじめモノクローナル抗体に酵素標識または蛍光色素標識を施し、これを光学的あるいは蛍光学的に検出するのである。

酵素抗体法は個々の細胞について検索でき、また白血病細胞の少ない場合に有用である。形態学とともに観察が可能であり、病理組織標本を扱う病理学および血液塗抹標本を扱う血液学の分野において利用されている。しかし、反応前に固定を行うことにより抗原の構造が変化し、使用可能な抗体の数には限界がある。また、血液細胞では内因性ペルオキシダーゼ、内因性アルカリフォスファターゼの影響があり判定が困難となる場合も少なくない。微量な抗原分子の解析には、蛍光顕微鏡下での検索も有用である。しかし、対象となる細胞の判別が困難である。さらに、両法とも多重解析の限界、反応性が弱い場合の判定および定量に客観性を欠く場合がある。したがって、抗原分子の解析はフローサイトメーターによって実施されることが多くなった。

Leukemia surface_marker

図1 モノクローナル抗体による細胞表面抗原の解析法

モノクローナル抗体に、酵素標識あるいは蛍光色素標識を施す。前者は光学顕微鏡を用い、後者は蛍光顕微鏡あるいはフローサイトメーターで検出する。2種類のモノクローナル抗体と標識物を用いることにより、多重解析が可能となる。多重解析により、1種類のモノクローナル抗体のみが反応するSPC、2種類のモノクローナル抗体がともに反応するDPC、いずれのモノクローナル抗体も陰性のDNCの検索が可能となる。SPC: single positive cells、DPC: double positive cells、DNC: double negative cells.


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